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「もうすぐ、陽が沈む?」
「全然」
「じゃあ、沈む前にもう帰ろう」
「え、もう?」
「うん。久々に遠出したからか、疲れちゃった」
膝の上で、美沙が元気が無さそうに言う。
「夕飯は?」
「朝から調子に乗って食べ過ぎた。全然食欲ないよ」
「わかった。もう少しゆっくりしてから車に戻るか?」
「これ以上甘えてたら、タケちゃんの膝の上で朝を迎えそうだよ」
俺はそれでも全然構わないけど、と言えないのが俺だ。
昼の暑さは超えたが、今は七月だ。美沙の手を繋ぎながら、沈丁花から出て来た時の違和感を再び感じる。
「美沙。手、冷たくないか」
「アップルソーダ持ってたからだよ」
「最後に持ってた俺の手は、既に汗ばんでるけど」
「最近低血圧だからだと思うよ。末端冷え性ってやつね」
「そうか」
運転席に座って車を発車させた。
「タケちゃん。私がまた他県に就職しても大丈夫?」
「え、地方で就職が決まりそうなのか?」
「いや、そうじゃないけどさ。タケちゃんは心配性だし」
「手が冷たいから冷たいって言っただけだよ。いや、心配くらいするさ」
「フフフフフ……」
疲れているからだろうか。美沙が寂しそうに笑っている気がして心配だ。でも、また何か言われそうだから黙っておいた。
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