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自分の部屋とは、何と殺風景だろうか。さっきまで色々な味や景色を楽しんだのが嘘のように静まり返っている。
美沙からもらった紙袋から、ハーブの鉢植えを取り出した。ラベルには、「スペアミント」と書かれている。
机に置いてスイッチを入れた。
すぐには何も音が鳴らなかった。振動すら生まれない俺の部屋のせいか。
とりあえず、美沙に電話をかけてみる。呼び出し音が鳴っても、なかなか出ない。疲れも出て来たので、スマホを閉じてベッドに倒れこんだ。
ブンシャカブンシャカブンブンブンブン……
さっきまで、疲労と静寂の中にいた俺は、そのナンセンスなメロディーのせいで、現実に引き戻された。ああ、後で別の音楽に変えよう。
しかし、次に出てきたメッセージを聞いた瞬間、そんな事を考えていた事すら忘れた。
「タケヨシさん」
美沙の声だった。美沙が、自分の声を録音したのだ。サンプルのメロディーの後から!
「実はね、今日はタケちゃんにサヨナラを言うために会ったんだよ。でも、私のことだからさ、どうせタケちゃんの顔見たら言えないんだなーと思ったから、ここにメッセージを残すね。私の視力が落ちたのは、レーシックのせいじゃないの。レーシック自体も受けてないの。病院で検査したらね、かなり重い病気だった。だから、明日から入院するんだ。ごめんね。タケちゃん、タケちゃんはミントみたいな人だよ。どんな味にも合う、万能な人だよ。だからさ、私じゃなくても、もっと合う人はたくさんいると思う。でも、できれば顔は、私よりも二十点くらい下の人と付き合ってほしいけどね。今日は、タケちゃんが不自由になるくらいずっと手繋いでもらったり、タケちゃんの苦手なモンブランを食べさせようとしたり、タケちゃんが疲れて幸せを感じないように意地悪しちゃった。許してね、ミントなタケち……」
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