ミントな君

2/15
前へ
/15ページ
次へ
美沙と付き合い始めたのは、周りが次々と就職が決まっていた大学三年生の七月。俺は実家の家業を手伝うことが決まっていたので就活はしておらず、昼休みものんびりと過ごしていた。  その年は梅雨明けが遅くて、外は湿気でベタベタしていた。昼休みに一緒にお昼を食べる仲間も居なかったので、一人でベンチに座ってコンビニの弁当を広げていた。 「タケヨシさん?」  ベタベタ湿気の中にさらっとした透明感のある声が聞こえて振り返った。声の主は、同じ学年の工藤っていう女の子だった。俺の名前は三上武義だから、下の名前をいきなり呼ばれて戸惑っていた。 「そ、そうだけど」 「私のこと、知ってるかな。工藤。下の名前は美沙」 「下の名前は今知った」 「えー、そうなの? あ、でも私はタケヨシさんの下の名前って知らなかったかも」 「え、だから武義」 「えー、下の名前だったの?」 「そうだよ」  ケラケラ笑う声に、不思議とウザいとは思わなかった。ただ、不思議な安心感に包まれていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加