次男の受難

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次男の受難

 徐々に目が覚めるうち、不自然な体勢で眠っていたことに気づいた。鉄製の椅子に座らされ、そこに手足を縛り付けられている。拘束を解こうと身体を動かすものの、結束バンドは緩みそうにない。  周囲をじっくりと見渡してみる。倉庫のような広大な空間だ。ただそこに収められたものは何一つなく、地面に砂埃が積もっていることから考えて、長期間使われていないことが伺えた。  物音ひとつしない。試しに大声で助けを呼んでみたが、虚しく倉庫内に木霊するだけだった。  しばらくすると後方の離れたあたりから重い扉が開くような音が聞こえた。それに続いて金属が地面をこする音がこちらに近づいてくる。  やがて背後から私の横を見知らぬ男が通り過ぎた。私が据わらされているのと同じ椅子を右手で引きずり、もう一方の手にはウィスキーのボトルが握られている。  彼は数メートル離れたところに椅子を置いてからこちらを振り返った。 「やっとお目覚めか。よく眠れたか?」  男は半笑いを浮かべつつこちらに戻ってくる。 「じゃあ、早速始めるとしようか」  手にしていたボトルの栓を指で弾き飛ばした彼は、空いているほうの手で私の頬を鷲掴みにし、無理やり口をこじ開けると、そこに中身を流し込んでくる。  喉を閉じて拒否しようとするがそれにも限界があった。全てとはいかないまでも、ボトルの半分以上の量を飲み込んでしまった。私は決してお酒が強いほうではない。それほど時間がかからないうちに酩酊状態に陥るのは目に見えていた。 「さて、酔っ払うまで待つとしますか」  男は踵を返し、椅子に腰を下ろした。その顔には薄ら笑いが浮かんだままだ。 「あんた、誰だ?」 「何でも屋、ってところかな」 「私をどうするつもりだ?」 「あんたが酔っ払ったら、車の運転席に座らせて、港から海にドボン!って感じかな」  私を殺すつもりなのか。しかしなぜ?まったく心当たりがない。 「なあなあ」  男の声でそちらを見る。 「酔っ払うまでの暇つぶしにさ、面白い話、聞かせてやろうか」  この状況で面白い話など聞きたくもなかったが、男の雰囲気から察するに、私の意志など無関係に話すつもりなのは明白だった。  案の定、返事をしない私を無視して、男は楽しげに話し始めた。
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