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ある日さ、俺んとこに一人の男がやって来たんだよ。40くらいかな。仕事の依頼だって。そいつはこう言うんだよ。
「兄を殺して欲しい」
事故死に見せかけてくれって条件付だった。もちろん引き受けたよ。そう。俺はそういう裏の仕事をメインにやってんだよね。
そいつはターゲットの名前と写真と、そして金を置いて帰っていった。
それから数日後のことだ。計画を立て、そろそろ実行しようかと思っていた矢先、俺の携帯が鳴ったんだ。出てみりゃ新たな仕事の依頼だった。そいつはこう言うんだ。
「弟を殺してくれ」
直後に転送されてきたターゲットの写真を見て驚いた。そこに写っていたのは、つい先日見たばかりの顔だったからだよ。
「な?ほぼ同時にこんな依頼が来るって、面白くね?」
面白いかどうかは別にして、この男は相反する依頼にどう対応したのだろうか。まさか両方殺したとでもいうのだろうか?だがそんなことはもはやどうでもいい。真綿で包まれたように思考がぼんやりとしてきた。早速酔いが回ってきたようだ。
立ち上がった男は歩きながら話を続ける。
「二人の男は会社の経営権がどうのこうのと説明していたけど、そんなもの俺には知ったこっちゃねえ。ただ一つ言えることは……」
男は口元を綻ばせながら私を見る。
「あんた、三兄弟の中でめっちゃ嫌われてんのな」
そしてついに堪えきれないと言う風にケタケタと笑い声を上げた。
なんだ。そういうことか。男が見せられたターゲットの写真とは、二枚とも私のものだったのだ。依頼は相反しておらず、兄貴と弟がそれぞれ私を殺そうとしていただけのことだ。
悔しいはずなのに、そんな感情が湧いてこない。酒を飲むと無性に楽しくなる性分なのだ。男に釣られて私も声をあげて笑っていた。
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