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静かな図書室で
「……」
「……」
ただでさえ静かな図書室。
今は放課後なので、もっと静かな室内には、僕と彼の二人きり。
誰かに見られたく無いから、僕はこの場所を選んだのだ。
こんな時間に呼び出されたのに、なかなか要件を切り出せないでいる僕に、彼は困惑している様子だ。
「……あの」
「……あのさ」
言葉のタイミングが被った。
どうしよう……よし!
僕は腹を括った。
「これ!」
「う、うん?」
僕は彼に、ピンク色の四角いスマートフォンほどの大きさの箱を差し出した。
彼は、首を傾げながらそれを受け取る。
「これは……?」
「チョコ!」
僕の大きな声が、図書室の静寂を破る。
「受け取って欲しいんだ! 嫌なら捨てて!」
「え、ちょ……」
「それじゃ、さようなら!」
「待てって!」
そう言って逃げようとした僕の手を、彼が引っ張る。
勢い余って、僕は彼の胸に飛び込んでしまった。
「っ!」
「渡して逃げるなんて反則」
そう言いながら、彼はくすくすと笑いながらチョコレートの入った箱の蓋を開ける。
「美味そう。食べよう、一緒に」
「……図書室は飲食禁止だよ」
そう返した僕に、彼は思いっきり吹き出した。
「分かった。それじゃ、俺の家で食べよう」
「え……あのさ、嫌じゃないの? 僕からのチョコなんて……」
「嫌なら、家に誘わないから」
彼は箱の蓋を閉めて、丁寧な動作でそれを自分の鞄にしまった。
「ほら、行くぞ」
「あ、」
彼に手を引かれて歩き出す。
きっと僕の顔は赤いだろう。それがバレたくないので、僕は少し俯いた。
高校生になって、初めてのバレンタインデー。それは、とても特別な一日になりそうだ。
僕は、彼と繋いだ手をぎゅっと握り返す。あたたかい。
来年も彼にチョコを渡せたら良いな。
早くも来年が待ち遠しい僕なのであった。
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