2人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう。宇宙遊泳」
「宇宙...でゆうえい?」
ピンとこない私は首を傾けた。
「そう。宇宙で泳ぐんだよ」
ほら、隆司君は私の期待を裏切らない。まるで小さいころに戻って、図鑑を広げた時の感動がそのまま飛び出したみたいな声を出す。私は、薄暗い部屋でそんな隆司君の横顔をこっそり盗み見た。
隆司君はきっと知らない。そんな少年みたいなところが、大好きだと思っている私のこと。そしてもっと知りたいと思ってしまう私のこと。
どうしてその塩の湖に行けば宇宙で泳げるのか、どうして宇宙が好きなのか、知りたくなる。大好きな人のことだから。
「その塩の湖は宇宙みたいなの?」
「そうなんだ。見渡す限り何もない大地がある。塩の湖が一面広がっている。晴れている日は空が湖に映り込んで、青空に飛んでいるみたいになる」
何もない大地が真っ暗な夜に広がる。塩の湖が一面に広がる。
真っ暗な夜空を青空に塗り替える。塗り替えられた空が湖に映り込み、世界が青空に変わった。
「そんな世界があるんだね。まるで天国みたいだ」
「そうそう。天国みたいだよ。行ったことないけどね。多分、そんな感じ」
「ふわふわ空を飛んでるね」
「一緒に飛ぼう」
隆司君はふざけるような声をだし、大きな身体を私に向けた。頭を寄せて二人でくすくす笑う。今、飛んでるよね?って、隆司君が小さく呟く。うん、だいぶ頭の中飛んでるねって私は冗談で返す。
「昼間よりも俺は、夜の方が好きだよ」
「夜?」
「そう、夜になると、満天の星空になるんだ」
頭の中に広がる青空が星空に変わる。星がぽつぽつと顔を出し、あっと言う間に小さな光で覆い尽くされる。
「ああ、星が出てきたよ」
「幸子の想像力は大したもんだ」
隆司君がくすくすと笑う。
「そんな幸子が好きなくせに」
「ああ、幸子が大好きだよ」
こんな時の隆司君はいつも大好きをくれる。お互いに好きを胡麻化したりしない。
「私も大好きだよ」
隆司君の左腕が私の首と枕の間に滑り込んだ。私の頭はすんなりと隆司君の腕の中におさまった。
「定位置管理」
ぷはってお互い声が漏れた。
最初のコメントを投稿しよう!