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キラキラ光る水面に色とりどりの魚たちが泳いでいる。
一年ぶりの沖縄の海。
バディのカズに向かって、私は親指を立てて下を指した。カズがOKのハンドシグナルを返す。
シグナルで知らせなくても、私はいつも、真っ直ぐ潜っていくのをカズはよく知っている。
ゆっくり海底を目指す。
海の青が水色から深まるに従って、軽やかに泳ぐ魚たちの色鮮やかな色は白い光と青い影に変わっていく。
シューシュー。
静かな呼吸音。
大丈夫。私は落ち着いている。
ボコボコボコッ。
泡が上がっていく音は案外大きい。
深く、もっと深く。
浅い海底を避け、深くなっているところを探す。
小さなニコンのカメラ。
見つかるわけがない。
拓海のバカ。
失くしてもよかったのに、なぜ、追いかけた。
なぜ、そんな時にレギュレーターが故障した。
どちらか、片方だけであれば、事故なんて起きなかったのに。運が悪かったとまわりの人は言うけど。
カメラなんてプレゼントしなければよかったと何度、思っただろう。
それなのに、カメラを取り戻したい。
それでも、拓海が最後に撮っていた写真が見たい。
深い青の中、呼吸音と泡の音しかしない中、ひたすら、探し求める。
トントン。
肩を叩かれた。
カズが時計を指差している。もう、上がる時間だ。
いつでも、あっという間に時間が経ってしまう。
ゆっくり上がると、暗い世界がだんだん明るく美しくなっていく。まるで、天国に呼ばれているよう。
そう考える自分に笑った。
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