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ボートに戻ると、船長が尋ねた。
「本当にもう戻るんですか」
「はい、結構です」
いつでも、一回しか潜らないようにしている。最初の頃、限界まで潜って、大勢の人に迷惑をかけてしまった。あの時、両親に泣かれたことを思い出すと、もう無茶はできない。
腰を下ろすと、隣にカズも腰を下ろした。
「いつまで、こんなこと、続けるの?」
ストレートに尋ねられた。
「さあ」
「もう、拓海は戻ってこないよ」
「わかってる」
拓海と私とカズ。
いつも一緒に潜っていた。
あの日、拓海が他の人たちと潜っていたのは私がカズと二人で会っていたからだった。
「ごめんなさい。私、拓海のことが好きなんです」
ただ、その断りの言葉を告げるためだった。それが誠意だと思っていた。
「まだ、好きなの?」
「さあ」
わからない。
カズは頼りになって、優しくて。断ったのに友人でいてくれる。
わかってる。
友人としての好意じゃないことは。私がその好意につけ込んでいるだけだ。
拓海のお母さんに言われたことがあった。
「和弘君なら、構わないと思っている」
何が構わないのか、すぐにわかった。拓海のことを忘れて、カズと付き合えばいい。みんな、そう思っている。
だから、終わりにしないといけない。
「もう、潜るのはやめる」
言ってしまえば、簡単で、それが本当になる。
「それって……」
カズが顔をのぞきこんできた。
「泣いてるの?」
私は答えずに膝に顔を押し付けた。
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