19人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
たった今、最期の一服を盛った。
ガラスの小瓶から、ぽとりと雫が落ちる。
朝日を受けたそれは、艶やかな光を放ち、夫人の潤んだ瞳へと映り込んだ。
そして、静かに着水すると、怪しげな波紋を広げ、紅茶の透明度まで溶け込んでいった。
口元を両手で覆うも、喜びを隠し切れない。
梅雨時には珍しく、この日は晴天に恵まれた。
「まるで、新たな門出を祝福してくれているようじゃない」
夫人は、足首まで丈のあるフレアスカートの裾をつまみ、長い髪を振り乱して、狂ったように踊った。
清々しい朝に反して、その光景は異様だった。
最初のコメントを投稿しよう!