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 小高い丘の上にある屋敷に、夫人は夫と二人、暮らしていた。  周りには英国風の庭園が広がり、季節の移ろいに応じて、バラやルピナス、チューリップなどが咲き誇る。  今の時期は、アナベルとモナルダが見ごろを迎え、すっきりした仄かな香りが、道行く人の視線を誘う。  誰もが羨む生活を送っていても、当の本人にとって、それは大層つまらぬ、むしろ嫌悪を抱くものだった。  夫とは家同士が決めた結婚をした。  父と母、その父と母、そのさらに上もそうだった。  勝手に整えられた常識を押し付けられ、それでも「思い切って一緒になれば何かが変わるかも」と淡い期待を寄せていたが、実際はその想像をさらに下回り、絶望の底へと叩き落された。
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