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 夫の風貌と言えば、目はくぼみ、頬は痩せこけ、青白い肌と長身のいかにも不気味な男、そのものだった。  唇だけは妙に赤く、こちらを見てにやりとする表情は、まるで白蛇のそれで、初対面からゾッとしたものだ。  いや、もはや見た目は二の次で、どうしても受け入れられないのは、その内面にあった。  連れ添って八年になるが、何を考えているのか、皆目検討がつかない。  家業を継いでいるらしく、朝はきっかり九時に出かけ、夜はきっかり八時に戻ってくる。  それだけなら勤勉有能な旦那なのだが、必要最低限の文言以外は何も語らないのだ。  「今、何を考えているの」と尋ねてみても、赤い口元がわずかに吊り上がるだけで答えはない。  一度カンカンに怒らせてやろうと、「森に囲まれたお城に住みたい」と駄々をこねたら、無理難題をすんなりと叶えてくれた。  「寝室も食事も別々にしたい」と声を荒げた時も、言いなりになるばかり。  「この人は、一体何が楽しいのかしら」  夫人には、何もかもが理解できなかった。
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