20人が本棚に入れています
本棚に追加
3
ある時、夫人の色褪せた世界が一変する。
夫が紅茶のバイヤーという男を、連れてきたのだ。
恰幅の良い爽やかな青年で、夫とは正反対だった。
珍しいネパール産やスモーキーな英国のものを溌溂とした声で説明するのだが、夫人の頭の中には何一つ残らなかった。
ごつごつとした手が掴むふたつの瓶を、羨ましいとさえ思った。
「奥様、またお邪魔させていただいてもよろしいですか」と屈託のない笑顔を向けられると、首を横に振ることはできない。
結局、この日、勧められた全種類を購入した。
「素敵な人…」
喜んで去っていく後ろ姿を眺めていると、ため息とともに思わず漏れた。
最初のコメントを投稿しよう!