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 夫が出勤すると、入れ違いで青年がやってきて、逢瀬を重ねる。  聞けば十も年下というが、彼はそれを感じさせないほど博識だった。  三十路の夫人は少女に戻ったようで、心弾む毎日を送るようになった。  そうしているうちに、疎ましかった夫が、さらに邪魔な存在となっていった。  「いっそ、死んでくれないかしら」  夫人はさすがにハッとした。  あらぬことに、惚れた男の腕の中で、とんでもないことを口走ってしまった。  青年はしばらく瞼を閉じると、「あなたを苦しめるものは、排除しないといけませんね」と、いつになく真剣なまなざしを向けてきた。  そして、アタッシュケースからガラスの小瓶を取り出した。  「これを香りの高い紅茶に溶かして、ご主人に。空になるころには、きっと願いが叶います」  夫人は奪い取るようにして、その瓶を受け取った。  「私、自由になれるのね…! 」  ちらっと視線を上げると、青年は無邪気な笑顔を浮かべた。
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