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それから、あたしはことあるごとに直江に話しかけた。そもそもトーク・ルームの使用を減らしたことで、しゃべりたい欲求と、そのための時間が有り余っていたのだ。
「直江ぃ、タピオカ行こーよ」
「ダイエットは?」
「してるわ! そのご褒美じゃ!」
「……まあ、いいけど」
たゆまぬ努力の甲斐あって、Q&Aのようだったやり取りも言葉のキャッチボールへと進化を遂げている。これって、コミュ力というより忍耐力かも? まあどっちでもいいか。
学校帰り、二人して近所のフードコートに寄る。五周目か六周目のタピオカブームはそろそろ終わりかけているらしく、今日は並ばずに買うことができた。直江はタピオカミルクティー、あたしはタピオカきらきらスターフラッシュ抹茶。意味わからんけど美味しい。
ソファ席に陣取り、あたしたちはさっそくタピオカをすすった。
「直江はいい加減、トーク・ルームに入ってよ。クラスのだけでいいからさあ」
「無理。不特定多数が出入りするようなサービス、気持ち悪い」
「不特定多数じゃないよ? 招待制だもん」
「招待されれば誰でも入れるでしょ。友だちとか、友だちの友だちとか」
「それは、まあ」
直江は出会ったときから『キキミミ』の使用、特にセキュリティ面についてうるさかった。やたら詳しいと思ったら、国のホワイトハッカー認定とやらを持っているらしい。その割に、端末を使ってるところを見ないんだけど。紙の本を読むし、クラスで唯一のメガネだし。視覚ハックしないの? と聞いたら鼻で笑われた。
「そうだ木曽、端末のアップデートはした?」
「したよ、たぶん」
「たぶんじゃねえよ。ほら」
直江にすごまれ、しぶしぶスマホを差し出す。一度拒否したら「必要以上は何も見ないし、見ようと思えばいつでも見られる」と言われた。こわっ。
「直江はさあ、詳しすぎるから逆に気になるんじゃない? デジタル潔癖ってやつ」
「『キキミミ』は体の延長なのに、ぞんざいに扱うやつの方が信じられないって。……あ、パッチ対応してないじゃん!」
ぐちぐち言いながら、直江はスマホを操作する。あたしの『キキミミ』に最新のセキュリティパッチを当ててくれているらしい。
その間、あたしはぼーっとあたりをながめた。夕食前の時間帯、フードコートは学生客が増えてひときわにぎやかだ。ゲーム対戦する男子たちの叫び声に、奇声を上げるベビーカーの幼児。前方の席ではおじいさんが『キキミミ』で話し(それとも独り言?)、後ろの席では女性グループがひたすら「かわいい〜!」を連発している。
「あー、平和だなー……」
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