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思わず目を閉じようとしたそのとき、コロコロという鈴の音がフェードインしてきた。『キキミミ』の呼び出し音だ。スマホにも通知が来たのだろう、直江が顔を上げる。
「ごめん、ちょっと出るね」
そう断ると、あたしは耳を通話に切り替えた。
「ああリナ、どしたの? なんか元気じゃん……え、あの彼氏? まじで、うそ……いや、知れよ! あ、そういう? おっけ。……うん……うん……あのさ、いま友だちといるから。そう……じゃ、あのこと決まったら教えてね。ヨロシクー」
通話時はお互い超早口なので、ジャスト十秒くらいで終わった。再び耳を切り替え、直江に向き直る。
「リナだった。同じクラスの」
「うん」
うなずいた直江は、妙な顔つきであたしを見ていた。短時間といえ、目の前で通話されるのはあんまり気持ちいいものじゃない。ひと言謝ろうとしたら、直江の方から口を開いた。
「切って良かったの。今の」
「うん。なんで?」
「いや……もっと話したかったんじゃないかと思って」
「なんでさ。あ、むしろリナたちが直江と話したいんだって! 今度みんなで遊ぼうよ」
「やめとく」直江は目をそらした。「あたし、面白いこと言えないし」
なんか、らしくないことを言っている。あたしは首を傾げつつ、とりあえずフォローに回ることにした。
「そんなことないよ、直江は頭いいしさ。自転車おばさんのこと話したら、みんな感心してたよ。知らない大人相手に、対等に話せるんだもん! あたしなんて、何言っていいかわからなくなっちゃったのに」
「……大人とか、知らない人はどうでもいい。だから、どうとでも話せるんだよ」
ぽつりと言うと、直江はそっぽを向いたままタピオカをすすり始めた。
つまり、あたしやクラスの子たちは直江にとって『どうでもよくない』ってことか。あたしは思った。みんなとうまくしゃべれるかどうか、心配なんだ。あの直江が。
直江は学校内で、あたし以外につるむ子がほぼいない。いじめとかではなく、デジタルツールを使わなさ過ぎて、みんなのネットワークから自然と漏れてしまうのだ。クールなふりして、直江はそのことを案外気にしていたのかもしれない。
その後は、二人とも黙ってタピオカをすすった。カップが空になると、あたしは真剣な顔を作って直江を見た。
「けっこう深い話になっちゃったね……。どうしよ、二人で泣く?」
「なんでだよ」
直江が顔を上げる。いつものしかめっ面に、思わず吹き出してしまった。
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