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知り合い以上友達未満
教室の出入口の扉が全開により、隣のクラスからの騒がしい声が廊下を通じて響き渡る昼休み。
「よっしー。さっきから廊下気にしているけど、何かあんの?」
廊下側の二列目の最前席。クラスメイトの座席を借りて座っている千晃の真横、廊下側の座席から間延びした声に問い掛けられた。
「まあ……待ち人?」
問い掛けてきた天然パーマの男、辻本英治の目線は手元のタブレットに夢中で、その内容が女性アイドルの動画であることは把握済み。辻本は千晃の唯一の趣味であるアイドルの追っかけのヲタク友達だ。
「それ、桜田のことだろ?」
そしてもう一人、辻本の真後ろの座席で動画を横目にお弁当を食しながら、二人の会話を聞いていた、飯田元樹が当然のように口を挟んでくる。黒髪短髪で真ん中分けの眼鏡、こいつも同じアイドルのグループが好きな仲間。
「もちろん」
千晃は当然だと言うように胸を張ってそう返す。
「今日は桜田来るのか?」
そんな自信は飯田の問いかけによって直ぐに消失された。
「……分からない」
いつ来るかも、果たして今日は学校に来るのかも分からないのが優作だ。
「というか、来るかも分からないのに毎日この時間になると気にしてるけど、桜田の連絡先は分からないの?」
お弁当をつついていた飯田が、おかずの肉団子を口に頬張りながら問う。
「うん」
「まじで?よっしーと桜田君って友達なんじゃないの?」
目玉が飛び出るんじゃないかってくらい驚いた表情を見せた辻本は、声も大きく、一瞬にしてクラス中の注目を集めていた。
「辻本、うるさい」
そんな周りの視線を気にした飯田に後頭部を思い切り叩かれる。辻本は叩かれた反動で上半身を前のめりにさせ、「飯田っち、痛いよー」と後頭部を摩っていた。
彼が朝から来ないのは唯の寝坊なのか、それとも別の理由があるのかは、ここ二年ほどの付き合いである千晃も知らない。
唯一知っている彼の情報は、椿が嫌いで同性が恋愛対象で、カツカレーが好きなことぐらい。
学校以外での彼のことが気になりはするけど、千晃が私情に踏み込もうとすると、冷たくあしらわれるのがオチだった。本音は連絡先だけでも知りたいと思うが、半分は自分の興味本位で優作に近づいているだけに、芸能人のパパラッチのように彼の私情に執着するのも違う気がした。
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