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呪われた高級車
4月のちょうど良い温度の日差しを浴びながら男は信号を待ってい
た。
男の名前は木村純。
この新谷市に住む22歳。
黒いスーツに身を包んだ爽やかな好青年。
彼はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
7時55分。
まずい。
その日純が起きた時刻は7時25分。
職場までは徒歩で15分。
寝起きの彼に残された時間は20分しか無かった。
急いで支度をし、家を出たのは45分を過ぎた頃だった。
赤信号が青信号に変わると同時に人が動き出す。
まるで機械見たいだな、と純は思う、しかし自分もまたその中の一
人なのだと自覚する。
今日もまた、憂鬱な一日が始まったのだ。
除霊会社天光。
新谷市、新谷駅前に本社兼事務所を構える純の働いている会社だ。
業務内容は文字の通り除霊である。
純はとある駐車場のついたコンビニの脇の階段を登り2階のドアを
開け、職場へと入った。
「遅いじゃん、寝坊?」
ソファに座り込み新聞を読んでいる黒髪の女に話しかけられた。
彼女の名前は田中梨沙。
天光の社長だ。
「あ、はい、そうです、すみません」
は梨沙の側に立ち謝罪をした。
梨沙は横目で睨みつける。
「やる気あんの?、今日は9時から客が来るからって言ってあったよね?」
「あ、ああ、すみません」
梨沙は大きなため息をつきながら新聞をたたむ。
「とりあえずコーヒー、それから軽く掃除して」
そう指示を出した後梨沙はポーチからメイク道具を出してメイクを
始めた。
「わかりました」
純は返事をした後に仕事に取り掛かった。
それからコーヒーを出し、あらかた掃除が終わった頃には時刻は9
時になろうというところだった。
梨沙もちょうどメイクが終わったらしく道具をしまっていた。
「机、拭いといて」
「はい」
純が机を拭き終わった頃チャイムが鳴った。
客だよ」
「はい」
玄関に向かいドアを開けた。
ドアの向こうには上品なマダムが立っていた。
「宮川さんで、よろしいでしょうか?」
純はマダムに向かって名前を尋ねた。
「はい、そうです」
「わかりました、中へどうぞ」
宮川を中に入れると梨沙はもうソファに座っていた。
宮川を梨沙の向かいに座らせ茶菓子とコーヒー、灰皿を出す。
「初めまして宮川さん、私田中と申します」
と梨沙は名刺を渡しながら笑顔で挨拶をした。
宮川は名刺を受け取りながら軽く会釈を返した。
「それで宮川さん、今日はどの様なご相談なんですか?」
「あ、はい、その、私の乗ってきた車なんですけど」
「車、ですか?」
「はい」
どの様なことが起きるんですか?」
「聞こえるんです、夜に走っていると、死んだ夫の声が」
「亡くなったご主人の声、ですか」
「そうです」
宮川の恐怖に溢れた様子に梨沙は少し驚いていた。
死んだ夫の声、それにそれほど恐怖するのだろうか。
「それはどの様な事を言っているのですか?」
「それが、わからないんです…あーとかうーとか何か苦しそうに…とにかく怖くて」
「わかりました」
形見の車から夫のうめき声、確かにそれは不気味だろう。
「ではご主人が亡くなった時のこと教えてもらえませんか?」
「はい、夫は、真面目な人だったんです…」
「でも会社をクビになって、次の仕事も長くは続かなくて、次第にギャンブルにハマって借金を作りました」
絵に書いた様な転落劇。
それは宮川の目に溜まった涙が表している。
「私も子供がいますし、離婚も考えたんですがある日、パチンコ辞めて真面目に働いてくれるようになったんです…けどすぐにいなくなってしまって」
「蒸発、ですか?」
「そうです、それで数日後、繁華街で酔い潰れて死んでいたんです」
「わかりました、ありがとうございます」
梨沙は泣きそうになっている宮川に感謝の言葉をかけた。
仕事をクビになりギャンブルにハマり、酒に溺れて死んだ男。
宮川は夫に対して良い感情を持っているはずはない。
「それでは、その車を見ましょうか、下のコンビニの駐車場ですか?」
「あ、そうです」
三人で部屋を出た後、下に降りる。
「あの、白いセダンです」
宮川が指差した先には国内大手自動車メーカーの高級セダンが置いてあった。
洗車をしてきたのだろうか、日差しを反射させ光っていた。
「中に入らせてもらいます」
梨沙は鍵を開けてもらい、運転席に座った。
特にこれと言って変なところはない。
外側と同様しっかり掃除をしてありとても綺麗だった。
それから少し経ってから車を出る。
「ご主人の悔しい思いが渦巻いています」
「やっぱり、そうでしたか」
「はい、除霊をするので一旦こちらで預からせてもらいます」
「わかりました」
「それでは色々と契約の話もありますので中に戻りましょうか」
三人は事務所へ戻った。
宮川と梨沙は契約の話を始めた。
しばらくして話はまとまったのか梨沙はペンと契約書を純に頼んだ。
それをサインをして宮川はタクシーを呼んで帰って行った。
「あの高級車、何か感じましたか?」
純はコーヒーカップを片付けながら質問した。
「いや、まったく」
梨沙はスマホをいじりながら答えた。
「そうですよね」
純は昔梨沙が言っていた言葉を思い出した。
あれはまだこの会社に入ってまもない頃。
たしか、殺人現場の除霊、だったっけか。
現場の雰囲気に圧倒され、怖がっていた純に向けて、梨沙は言った。
「いい?純くん、霊なんて思い込みなの、だから私達がいないって思い込ませれば消える、そういうもんだよ」
そう、梨沙も純も霊など見たことも信じてもいない、当然霊能力などあるはずもない。
除霊会社天光。
それはエセ霊能者の詐欺まがいの会社だった。
「そうだ、明日の高福市の現場、あの車でいこう、純くん、運転できる?」
「できますけど、良いんですか?」
「良いに決まってるじゃない、勿体無いよ、折角なら乗らないと」
「わかりました」
それから純は昼飯を外で済ませた後梨沙の命令で車を少し走らせた。
特に変なところはない。
宮川の言った様に男の声など聞こえない。
幽霊とは、思い込み、そんな梨沙の教えに純は賛同していた。
今まで様々な曰く付きの物や部屋、場所に行き除霊…をするフリをしてきた。
しかし本当に霊にあったことも何か不幸があったことは一度もないからだ。
純は車を駐車場に止め外に出る。
鍵を閉めタバコに火をつけた。
時刻は3時半。
あと1時間半、仕事を頑張ろう、と純は天光事務所に向かっていった。
事務所に入ると梨沙は書類をまとめていた。
「車、どうだった?慣れた?」
「ええ、ばっちりです」
「そう、じゃあ明日の朝一から高福市ね」
「はい」
純は先程明日の現場の住所をナビに設定していた。準備は万端である。
「あ、そうそう、一応これ、読んどいて」
梨沙に紙を手渡された。
そこには宮川からの依頼がまとめてあった。
依頼人
宮川奈緒子 51歳
依頼内容
5年前に事故で他界した夫宮川正雄の残した車から彼のうめき声がする為除霊してほいしい。
宮川正雄は真面目な男だった様だがリストラに合いギャンブルで借金を作るなど荒れるが妻に真面目に働く事を宣言する、しかし失踪し、数日後酒に酔って死んでいる所を発見された。
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