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完全なる静寂とは違う。その部屋でささやかに鳴り響くのは、今までの勉強の成果をペンに載せて答案用紙の上で踊らせる音。そう、ささやかだ。だから、こんな部屋でオナラをしようものなら、皆の集中力を一気にかき消し、あたり一面、異臭で満たされてしまうだろう。高校受験会場という、とてもとても大事な聖域で。
なぜ俺は、こんな大事な日の朝、サツマイモを三本も食べてしまったのだろうか。家で朝食を食べている時間が無かったので、キッチンに残っていたふかしたサツマイモを三本ほど新聞紙にくるんでカバンに入れ、試験会場へ向かうバスの中で食べた。その結果、今、必死にオナラを我慢しながら試験を受けている。ああ、答案用紙の問題に集中できない。今の俺は、ケツの穴でガスを阻止することに集中力のすべてを注いでいる。ここでケツの穴からガスを盛大に噴射しようものなら、ここにいる全員の思い出の一ページにそのことが刻まれるだろう。それをなんとか避けたいが、もう限界だ。
ぶ…ぶぶぶ…ふぶぅぅぅう…ぷりぷり
ぶうううううううっっっ…ぶほっ
静かな部屋に響き渡る、異臭を込めた音。しかし違うのだ。その音は俺のケツからではなく、試験官の方から聞こえてきた。
「……ふっ」
「…ふくく…」
「…ひひひ」
『あっははははははははははは』
あちこちから含み笑いが聞こえ、たちまち会場全体、笑いの渦。俺はみんなの響き渡る笑い声に紛らわせながら屁をこっそりこいた。
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