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青空に雷鳴
ちいさく、雨の音がした気がした。反射的にエントランスに目を向けると、ガラス張りの自動ドアの外は薄曇りになっているものの雨粒の気配は見受けられない。ただ、うっすらと制服を正しく着た自分の姿がガラスに映るだけだった。
「これ、あなたが入れてくれないかしら」
その言葉で、今しがた女性と話していたことを思い出す。向き直ると、その人はあるものを差し出してきた。それは、見覚えのあるヘッドホンだった。ハウジングの部分は、喪服姿の人しかいないこの空間には不相応な、ぱきっとした鮮やかな青色。そこには時空を裂かれたみたいに斜めに亀裂が入っていて、もう使い物にならないものだということは一目瞭然だった。
「あなたと同じものなんだって、あの子自慢してたから、あなたが入れてくれた方が喜ぶと思うのよ」
そう言われて手渡されたそれは、ほんとうは軽いはずなのに、ずしりと手のひらに沈み込む。小さな傷と大きな割れ目の感触が、やけにちくちくと皮膚に伝わってきた。
黙っていることを躊躇いと捉えたのか、女性は静かに言葉を付け足した。
「どうするかは、あなたが決めてちょうだい。私はもう……」
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