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────廃寺の本殿から少艾の子守唄が聴こえる。
月夜、僕は麗美で溌剌な星空を肴に、その声に惚れ入ってしまう。
形ないモノが朽ちていく中で、幼くて、淡い声だけが──透き通っていく。
「夜は綺麗だね」
声だけが残され、虚空に啾々と響く。
「返事くらいしてよぉ」
この声に聞き覚えがあった。
でも、それは遥か彼方に絶たれた久遠の別れを示すもの。
僕は、彼女を好いていた。そんな事実が、酷く痛い。
僕は会話が苦手だ。相手の言葉をキャッチし、理解し、返球するのが一々全力投球だからかもしれない。
昔、だから此処に逃げた。一人になりたくて。
逃げても逃げなくても、一人なのは変わらないと知っていた。
儚い唄が舞うのも、
晩夏の刹那と語り合うのも、
其処は、紛れもない、『廃寺』だった。
「いつも、見てたかからね」
一緒に、泣いていたんだよ。
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