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不思議な夢を見ていた。
でも其れは確実に形として生っている。
夜空の下、名も知らない少艾と語り合うと言う世界が奏でられる。
其処での会話は妙にたどたどしくて、遥かに香る浴衣の匂いのようだった。
僕が、
「一番好きな食べ物は何?」
と訊ねると少艾は嬉しそうな顔相を綻ばせながら自信満々に言った。
「砂糖! ……かな」
僕はどう返すのが正解なのか分からず、適当に繕って相槌を打つ。そんな僕に満足したのか、少艾が僕の前に立つ。
「砂糖はね、すっごい甘いんだよ」
「……一応、知ってるよ」
夜に靡くのは、彼女の前髪だった。
黒い髪がやけに色っぽく見えて、──遠い夢が終わった。
春、僕は何故此処に居たのだろう。
静謐な想いに、無像で虚妄の香りを馳せた。
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