表紙

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 廃寺は何時も夜だった。一度体感的にはかなり長い時間居たはずなのに、太陽は一向に姿を現さなかったからきっとそうなのだろう。  代わりに月が出て来ない日は無かった。満月だったり、半月だったり、下弦の月が闇を照らしたり。丁度良かった。この朧気な外気に包まれている時は、自分がどうして息をして生きているのか考えなくて済む。 「夜は好き?」  単刀直入に問った。 「……大っ嫌い!」  今回も会話は二回で終わると思っていたのに、脳裏で思っていたものと違う回答が出てきて話を広げられると、まず感じた。でもそれは此方の勝手で、嫌いなものが壮大であればあるほど生きにくくなってくる。 「何か、理由はあるの?」  そう口に出してみれば、廃寺の縁側で二人座って会話していることに気付いた。 「ある」  彼女はそう言って、夜桜の舞に視線を合わせる。今日が春の最中だと知った。 「私さ、朝が来るのが嫌いだから夜が嫌いなんだ」  一瞬理解ができなかったが、今も理解出来ていない現状に仄かに焦る。 「夜が来たらさ、次は朝しか来ないじゃん」  つまり、『夜』を好いているという事だ。  中々に遠回しな言い方で解りにくかった。 「じゃあ、夜好きなんだね」 「いや、夜は嫌い。大っ嫌い」 「なんで?」 「次が朝だから」 「じゃあ夜の次がまた夜だったら?」 「……好き、かな」 「それを朝が嫌いって言うんだよ」  最長記録を更新した折、桜が穏やかに散った。
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