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 土曜日、奈那(なな)は自動車で迎えに来た。 「おはよう、で、どこに行くの?」  奈那は、不敵な笑みで答える。 「ふふふふ、ちょっと非現実的な体験ができる所よ」  車はひたすら街中を走り、とある総合大学に到着した。 「ここ?」 「そう、私の母校の播磨屋(はりまや)環境(かんきょう)総合大学(そうごうだいがく)。ここの准教授(じゅんきょうじゅ)が私の叔父(おじ)さんなの。ここにある特別な部屋に入れるようお願いしたんだ」 「特別な部屋?」  車を降りると、奈那はスタスタと大学に入っていく。本来土曜日は休みだが、学内は、学生もいてオープンな雰囲気だった。校舎のどこをどう歩いたかはわからないが、奈那はある部屋の前で止まった。ノックを3回。ドアが開いた。 「おう、奈那ちゃん。無響室(むきょうしつ)に入りたい人がいるんだったね。じゃ早速(さっそく)行くか」  岩崎(いわさき)先生は、無響室に案内してくれた。ドアを開ける。更に金庫のような分厚いドアが中にあった。 「ここはね、無響室と言って特殊な部屋でね。室内は静かで、反響(はんきょう)が全く生じないんだ。何も音を出さなかったら、全くの無音状態になる実験室だよ。中でおしゃべりもできるけど、外で話すのとは違うように聞こえるよ。全ての音が遮断されると、体にどんな変化があるかしっかり体験するといいよ」 「えっ。何か変わったことが起こるのですか?」  岩崎先生の言葉にビビりながら私は聞いてみた。 「人によって感じ方は違うね。心理状態によっても変わってくる。とにかく体験してみるといいよ。で、中で気分が悪くなったら早めに言ってよね。部屋の中でゲロをしちゃった人もいるし。奈那ちゃんも入るか?」  奈那が、激しく両手を振って言った。 「私はもともと狭い部屋に入ること自体いやなので遠慮しときます」   「ええ! 岩崎さん入らないの!」 「うん。私はもう体験済みだから。須崎(すざき)さん貴重な体験をしてきてね」 「何だか。心細いなあ。先生からは、さんざん脅かされてるし……」 「まあまあ、そうは言っても単に部屋に入るだけだから。心配しないで。気分が悪くなったらすぐに出よう」 「じゃあ。よろしくお願いします」 「じゃあ開けるよ」
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