10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
①
最近職場にいるだけで疲れる。
朝8時20分、勤務開始の時間。
私こと、須崎洋25歳は、視覚障がい特別支援学校の『寄宿舎』で、舎生の生活支援をする女性指導員である。一週間に一度だが泊まり勤務もする。指導員は10名で、4名が男性指導員。私を含めて2名が新米女子指導員。そして、4名が指導員歴10年以上のベテランおばさん指導員だ。
朝からの疲弊感。
原因を強いて言えば、職場のおばさんトークのザワザワ感が癇に障ることかな……。
終日、寮務室にベテラン指導員のおばさんトークが、湧き上がる。そのおばさんトークも、どうということもない世間話や、身の回りの愚痴であったり、特売品のことであったりと、たわいもない話題なのだが。最近、とみに気になりだした。トークに加わっているわけでもなく、ただ聞こえているだけなのだが、ザワザワ感が、不快な雑音として意識される。
寄宿舎で働き始めて、3年目の5月。
昼休憩の寮務室。同期採用で同じ年齢の女子指導員岩崎奈那と、たまたま2人きりになった。私は、奈那に今の心情を吐露した。
「岩崎さん、最近なんか疲れない?」
「全然。 須崎さん疲れるの?」
「うん。何か、だるい。特に休憩でリラックスしているときとか……どっと疲れが、のしかかってくる」
「え?」
「指導員のおばさんトークが聞こえるとね、すごく疲れる」
「ああ、寄宿舎や学校の裏事情みたいなこと話しているよネ。私は面白そうだから聞いちゃうけど」
「岩崎さんはそんな元気あるんだ。私はダメ。愚痴とか、いやみとかどうでもいい話を聞くのは」
「聞かなきゃいいじゃん」
「いやでも聞こえてくるのよ。それに、私を見て話しかけてくることもあるし。無視できないし」
「ふーん。ってこの会話もおばさんトークっぽくない?」
「は! そうだ。何かウダウダ感が漂ってるよね。ごめんね、岩崎さん」
「いいって、私は全然気にならないし。でも、だるいのは辛いよね。そうだ須崎さん! 静かな所に行くってのはどう。何もかも忘れるような静かな所で、疲れた心を癒すの」
「そんな所ある? 山奥の温泉?」
「いえいえ、もっと静かな所。私、知ってるから、次の土曜日に行こうよ」
「うん。いいよ。お寺か神社?」
「まあ、それはお楽しみに」
最初のコメントを投稿しよう!