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のぼりはじめた太陽の光で目を覚ますとあろうことか真斗様のベッドの上だった。 うああああああああ!!許されるならば床を転げまわりたい!!!! 見っともないのは寝落ちだけじゃない。あんな大口を叩いたくせに怖くて強張る俺を、大丈夫だって真斗様は始終気にしてくださった。 『どこか痛いか?つらくないか?』 最中、あやすみたいな優しい声色に涙が出てしまったけど違うんです… 痛みに怯えたわけじゃない。 き、きもちよくて戸惑ってたんです…。 今もなんて説明すればいいのか、股間に挟まる熱の余韻があってもさほど痛みを感じないのは沢山ほぐしてもらえたからで……自分の口から出たとは思えない、あられもない嬌声だってしっかり記憶の中にある。 (うぅ、こんなの知らない…!) 本番に備え慣らしはやってきた。 けど毎回、男性器を模ったものに体を真っ二つに引き裂かれそうな痛みと苦しさに情けない悲鳴をあげ、自分でやる時も受け入れるべき箇所は指一本すら拒んだ。 使い物にならなかったらどうしよう?せめて口で奉仕を、と思ったのに真斗様からは何もするなと拒まれた。 ………良いわけがない。 わけの分からないまま何度も俺ひとりが昇り詰め、「もういいです!」と泣きつくまで念入りにほぐされ焦らされた。 『全部挿れたりしない。安心しろ』 挿れてくれてもよかったのに…。 俺の力不足で本当に申し訳ない…そんな罪悪感がある一方、こんな近くに人肌があるのも信じられない。 (寝顔も、たいへん絵になられるのですね) すぐ隣には瞼を閉じて眠る真斗様のお顔がある。 長い睫毛に彫が深い顔立ち。いつもより少しだけ幼く見えてしまうのは無防備な姿だから?それを見ているだけで胸が熱く高鳴ってーー―ハッ、違う!!見惚れている場合じゃないんだってば! 後片付けもすべて任せっぱなし!さらに俺の着物はどこに!?それと誰が着せてくれたのか、俺はふわふわした生地でできた浴衣のような寝衣を身に纏っていた。 (もうやだ…) 部屋に逃げ込んで母さんに泣きつきたい…。 いくら婚約者の肩書があったとしても、俺は真斗様の部屋でのうのうと寝てていい人間じゃない。 日の出とはいえまだ薄暗い寝室と屋敷内だ。なるだけ音を立てないよう、万が一にもふらついて転ばないよう慎重に戻らなければ…。 ゆっくりと身を起こして、そっと――片足が床に触れそうになった時、 「どこに行く?」 「わっ!?」 低い声を漏らした真斗様に腕を掴まれてしまい、ずるずると布団の中に引き戻されてしまった。 「…す、すみません…、起こしてしまいましたか?」 「そんなことは気にするな。それよりどこに行くつもりだった?」 「自分の部屋に戻ろうかと…」 けど俺は横抱きにされ、しかもすっぽりと腕の中に閉じ込められている。 …うっ。俺、汗臭くなったりしてませんか…? 真斗様の低い声には色気があって緊張してしまうし、ドキドキしすぎて心臓の鼓動が伝わらないか心配だった。 そんな焦りと恥ずかしさで赤くなる俺とは反対に、真斗様は苛立ち混じりの溜息をついた。 「戻るな。ここにいろ」 「え!?でも…私は、」 「一晩を共にした者がいなくなるのは寂しいだろ?それとも俺のそばが嫌か?」 「そのようなことはありませんが…」 え、真斗様が寂しい・・・? さすがに聞き間違えだと思ったけど、まるで拗ねているかのような物言いに戸惑った。 「雪路。言いたいことがあるならば遠慮するな」 「私がいては真斗様は安眠できないのでは?それに遠慮せずに…とは、どのようにすればいいのか…」 そもそも鬼崎家に来てから俺は遠慮なんてものをした覚えがない。今回俺が真斗様にお情けを頂けたのも奇跡だ。 だけどそんなことを口に出せば、確実に真斗様の気分を悪くさせてしまう。 なるだけ言い方に気を付けなければ…。 「そうか。例えば……ほら腕を離してやったぞ?これで部屋に戻るのもここで朝まで過ごすのもお前の自由だ」 「え?」 「自分で決めろ雪路。どっちを選んだところで俺はお前を嫌ったりはしない」 真斗様の言葉を疑う気持ちなど微塵もない。 だから、本当にどちらを選んでも良いのだろう そう思うと、心が寂しくなった。 失敗ばかりで合わせる顔もないと思っていたのに、どうだろう? 離れてしまった腕が恋しいなんて… 「……おい、雪路!?」 ぞもぞと布団の中に沈むように潜り、野兎のように閉じこもる俺。 初めて聞く真斗様の焦ったような声が少し面白かったけど何より恥ずかしいんだ。俺が。 やっぱり合わせる顔がないと思ってしまうから―――。 「………ここが、いいです」 ぎゅっと真斗様の体に腕を回して 小さくも漏らした本音だ。 消えてしまいたいくらい恥ずかしいけど、選んだことを後悔したくない。 「雪路。それは反則だろ」 心臓がうるさくて聞き取れなかったけど 優しい声が居心地よかった。
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