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目を開くと、そこは見たことのない場所にいた。
雲一つ無い杏子色の空には虹色のカーテンのようなものが浮いていて、風に靡く草木の如く揺れていた。
大地は数多の色を帯びた宝石のようなカケラで埋め尽くされ、歪な形をした巨大な樹が地から伸びており、そこにはサイケデリックな模様の如何にも毒々しい見た目の実が成っていた。
ここは今までいた世界とは全く違う世界――所謂異世界と呼ばれる場所である。つまりイヴの創造した世界ということになる。
体が異様に軽い。意識はぼんやりとしてまるで宙に浮いているようで夢心地である。
視界ははっきりとしている。風が吹く音が聞こえる。何かを認識し感じることが出来る。口を開き、言葉を発することが出来る。
それこそ、”自由”の証明である。しかし、完全なる”自由”はまだである。
――「あともう少し……。残り一つのピースを埋めて、イヴが望む世界というパズルが完成するんだ」
イヴが指をパチンと鳴らすと、歪な形をした巨樹に成っている実が悲鳴のような音を立てて割れ、そこからツバサが生えたあらゆる動物が現れた。
それは、イヴが今まで選りすぐった動物たちがこの世界で再び誕生したことを意味する。
そして、最後に割れた実から人型の”それ”が現れた。その姿は決して見紛うことがない――有栖川朱禰であった。
表情は虚ろで生気をまるで感じさせず、ツバサを羽ばたかせることも出来ずに重力に身を任せるがまま地に落ちた。
そんなことなど気にする素振りも見せず、イヴはツバサをバタつかせる動物たちを前に立つ。
「ようこそ、イヴの世界へ。そしておめでとう。イヴの世界で存在する権利を得た幸運な生命たちよ」
イヴは目に感動の涙を湛えながら高らかな声で”生命”とイヴが呼称するそれらを祝福した。
それに呼応する形で生命たちは一斉にイヴの方を向き、目を血走らせた。
――「アッハハハハハハハ、あまねく広がっている。イヴの自由と権利が赦された世界はもう間もなく完成を迎える。さあ生命たちッ!歓喜の咆哮を上げろッ!」
イヴの一声により、世界は狂気な狂喜に包まれた。
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