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エピソード7 渡す
今日はいつもと違う作戦。
「瑞妃おはよ!」
いつもと同じように話しかけて彼女の頬に触れる。
でも彼女の反応はいつもと違って「うん」とそれだけで。
機嫌悪いのかも、怒らせた……?
俺はない頭で必死に作戦の続きを考える。
「ごめん、いやだったよな。お詫びするから」
思いつく言葉を不器用に並べて昨日用意した一枚の紙とホッカイロを渡した。
紙に書かれた内容は〝放課後空き教室で待ってる〟というもの。
とりあえず今は待つしかない。
放課後まで、ううん、彼女が空き教室に来るまで。
学校中がバレンタインで浮かれた雰囲気の中、俺はずっと沈んでいた。
もし、放課後彼女が来なかったらきっと青いものを俺じゃない誰かに渡しに行くだろう。
彼女が来たとしても告白に応じてくれるかは別問題。
思い詰めた感情で心の存在を知らされる俺は放課後のチャイムが鳴った途端、空き教室へと向かう。
決戦の場のドアを閉めようと振り返ったとき、そこに瑞妃がいた。
心臓の音で背後の彼女の存在に気付かなかった俺は何も言えずに後ずさる。
ガラガラガラ。
彼女がドアを閉める音に俺は焦ってこう言った。
「その、朝は悪かった」
彼女は「あ、うん」と言葉を返してくるが視線が全くとして合わない。
これじゃ〝好き〟なんて――。
「朝、緊張、してたの。今日、これを渡そうと思ってたから」
彼女の歯切れの悪い言葉と見覚えのある色の箱を不器用に受け取る俺は「ありがとう」よりも先に「いいのか?」と言葉を落とす。
下を向いて首を縦に振る彼女を見て、俺は急いで「好きだ」と言った。
今じゃないと彼女にそういわれる気がして。
言葉を着飾ったのはそのあと。
「ずっと瑞妃が好きだった。付き合ってください」
「はい」
彼女がそう顔を上げる。そしてその笑顔で俺らは今日、初めて目が合った。
-END-
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