エピソード1 温める

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 あ、いたいた。  気づかれないように後ろからそっと近づいて――。 「瑞妃(みずき)おはよ!」  今朝作られたであろう彼女のポニーテールをよけて、登校時にキンキンに冷えた俺の手を、彼女の頬に勢いよく当てる。  案の定、彼女は「ひゃっ!」と声を上げ、思いっきり振り向いた。  忘れてた、ポニーテールは攻撃してくるんだったや。 「なにするの!」 「なにって朝の挨拶だけど? おはよ」 「おはよ。って、そうやって最初から普通に声かければいいじゃない」  彼女は俺から視線を逸らして少し頬を膨らませている。  俺はまたその頬にツンと冷えた手で触れてみる。 「つめたっ」 「知ってる」 「毎日毎日なんでこんなことしてくるの!」 「いいじゃん別に」  瑞妃のことが好きで触りたくなっちゃうんだからしかたない、なんて心の中でも彼女に反発した。  でも好きとか考えたら恥ずかしくなって、そのどうしようもない感情をポケットの中に入れ込む。  あったか。まぁ冷たいとかかわいそうだしな――。  俺は心にも素直になれないまま、今朝から温められたホッカイロを握って彼女の頬に当てた。 「わるかった」  口先だけの謝罪を添えて彼女から逃げるように自分の席に向かう。  後ろを追ってくる〝好き〟という感情が鬱陶しくて教室に背中を向けて寄りかかる。  そして彼女のポニーテールの先を僕は温度をまとう瞳で見つめた――。
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