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1年生
4月
今年も児童クラブに
ぴかぴかの1年生が入ってきた。
私はあの子を初めて見たとき、
かわいいって思った。
男の子は、
小学生になると
やんちゃな子の方が多かったけれど、
その子は温和しくて、
ちょっと恥ずかしそうに笑って、
「こんにちは」って言った。
その年入ってきた一年生の中では
一番かわいかった。
児童クラブは
3年生までだから、
本当はもう仲間じゃなかったんだけれど、
塾へ行くわけでもないし、
どうせ家に帰っても
両親が帰るのは遅かったから、
4年生になっても
ほとんど毎日児童館へ通った。
4年生になって最初の頃は、
同級生の友達に誘われて
家に遊びに行ったり
外で遊んだりしたのだけれど、
大体5時ぐらいには
さよならしなくちゃならないから、
そのあと一人になるのが嫌で
結局また
児童館に逆戻りしてしまったわけ。
その子は、“ありたか”
と言う名前だったから
児童館の先生や友達はみんな
"あー君"とか"あり君"って
呼んでいた。
私も初めはそう呼んでいたんだけど、
あるとき
私の袖を引っ張って
内緒話するようにこっそりと
「あのね、
お母さんだけは僕のこと
“ゆちょん”って呼ぶんだ。
だから、お姉ちゃんも
そう呼んでくれると嬉しいな。」
っていう。
「どうして、お母さんは
ゆちょんって呼ぶの?」って聞くと、
「僕の名前、
漢字だと有天って書くんだけど、
韓国ではこれで"ゆちょん"って
読むんだよ。
僕のお父さん、韓国人なんだ。
だから。」
「そうなんだ…」
私は、ちょっとびっくりした。
「でも…その呼び方は
お母さんだけの”特権”でしょ。
だから…じゃあ、
私は”ゆーくん”って呼んでいいかな。
どお?」
ゆー君は、
嬉しそうににっこり笑って
「うん」っていった。
二人だけの
秘密の約束ができた。
児童館に行くと、
ゆー君は一年生だから
いつも先に来ていて、
私を見るといつも
「お姉ちゃん、あそぼー」って
駆け寄ってくる。
「宿題終わったの?」って聞くと、
たいがい「まだ…」って
苦笑いするから
「いっしょにやろ。
終わったら遊ぼうね。」っていうと
素直に「うん」っていう。
ゆー君は男の子だから、
外遊びや遊技場でボール投げとか
竹馬とか
身体を動かす遊びが好きだったけど、
みんなが帰ってしまって
二人だけ残ると、
「本を読んで」ってよくせがんだ。
閉館時間になると、
手を繋いで帰った。
同じ団地に住んでいたから、
いつも家の前まで送っていった。
たまには、
そのまま上がりこんで、
おばさんが帰ってくるまで
遊んでしまうこともあった。
そんなときは、
おばさんが心配して
家まで送ってくれた。
そんな風にして、
毎日毎日一緒に遊んで
「本当の姉弟みたいに仲がいいね」
って言われるくらい一緒に居て、
あっという間に3年間が過ぎた。
卒業式の日、
児童館の先生にも
お世話になりましたって
挨拶にいった。
ゆー君は、
泣いていた。
「家も近いんだし、
遊びたいときは来ればいいよ。
本も読んであげるから」って
頭を撫でてあげたら、
うん、とうなずいて
やっと頑張って笑ってくれた。
でも、結局、それっきり
ゆー君が遊びに来ることはなかった。
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