0人が本棚に入れています
本棚に追加
静けさのなかで
見つめる横顔は、物理的に遠い。
等間隔で立ち並ぶ本棚から抜き取った本の頁を数回めくり軽く目を通しているのだろう彼の姿を、作業する手を止めて見つめてしまう。
彼が立っている通路は私と、彼と、その間に2人いた。
(だから、大丈夫よね?)
見つめていても。
遠いし。
(バレない、よね)
彼が本から視線を外し、また書棚の本の背表紙に目を向けた。
彼と私の間に立っていた、1人の館内利用者が別の通路へと移動した。
(集中してるのかな……)
後ろを通過した利用者に何の反応も示さない彼の真剣な表情がうかがえる。
(もっと見つめていたいけど……)
手元の返却処理された書籍を書棚に戻す。
ワゴンに乗っている冊数は50を越えているので手早くすまさないと退勤までに終わらない。
また1冊取り出して書籍を確認する彼を、一瞬だけ両目にとらえると、私はワゴンを押して後ろを通りすぎた。
わずかな車輪の回転する音と、自分の鼓動だけが館内の静けさのなかで、私の耳に届いていた。
最初のコメントを投稿しよう!