田舎という監獄

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 3月吉日、満開の桜の下、100人ほどの学童とともに田舎町の小学校を卒業した。  式が終わって親しかった仲間に別れを告げ、ボタンがとれて前が開いた制服で校庭をゆっくり歩く。  ありふれた遊具、階段の手すり、花壇、椿の植え込み、その一つひとつに6年間の思い出がつまっていた。ここでの楽しいことも、嫌なことも、もう終わり。どんなに望んでもそういう時間はもう返ってこないのだなと、感傷的な気持ちになる。一方で、別れを早めたのは僕自身だったし、別れることが決まっているからこんな気持ちになるわけでとても勝手だ。 それでもこんな気持ちになってしまうのは、美しい田舎町で過ごした時間を大切に思っているからなのだと思う。  初春の冷たいそよ風があの時のように半ズボンから出た足をなでていく。けれどあの時のように動揺することも、父の助けを必要とすることもない。決して小さくない不安を胸の奥に押し込め、踵を返して、校門へ足を踏み出した。
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