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都会の孤島 - 中学校編
入り口のドアを開ける。最初に目に飛び込んでくるのは使い込まれた薄い緑の無機質なリノリウムの床。左右それぞれに2つずつロッカーがあり、その先に塗装がところどころ剥げたメタルフレームの二段ベッドが2つ。更にその先にはグレーの事務机がまた左右に2つずつ。必要最低限の4人部屋になっている。
よく掃除された部屋の奥の壁は腰から上が大きな窓になっており、そこから入る柔らかな日差しが転落防止用の2本のバーを照らし、長い影を寮室に落としている。
どうやら僕が一番乗りのようだ。自分の名札が貼られたロッカーに荷物を仕舞い、同じく名札が貼られたデスクマットを確認して椅子に腰かける。入学式で強張った背中を伸ばすように背もたれに体を預けると金属がきしむ嫌な音がした。慌てて浅く座り直し、両膝に肘を乗せ、前で組んだ手に顔を乗せる。しばらく寮室を観察していたが、それにも飽きて良く晴れた見慣れない春の空を眺めながら、先ほどまで参加していた入学式を思い出す。
両親とともに通された体育館で入学式が始まった。初めて見る偉い人たちが次々壇上に立ち、お祝いの言葉を述べていく。
その中でもひときわ大きな存在感を醸し出していたのは学校創立者の山岸先生だった。明らかに60歳を超えており、一見小柄な好々爺のようにみえたのだが、お祝いの言葉が始まると一転。とても老人とは思えない覇気のある言葉で新入生を歓迎し、また父母に対しては子どもを送り出してくれたことへの感謝を伝えつつ、その信任に応えることを約束していた。
40歳を過ぎて一からこの学校を作り上げたバイタリティはいまなお健在なようで、私立の学校には校長先生以外にもたくさん偉い人がいるのだなと呑気に構えていたところ、この演説で雰囲気にのまれてしまった。と同時に、いまから親元を離れ、ここで頑張っていかなければという気持ちを奮い立たされた。
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