田舎という監獄

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 家族が優しい、山や海が美しい、食べ物が美味しい、自然の中で遊びまわれる、毛筆で多少字が綺麗に書ける、いま考えれば素晴らしいことだ。それに、それらは確かに当時の僕に居場所をくれた。でも、僕自身を救ってはくれなかった。  寧ろ、小さい商店ながらも立派に家族を養ってくれている両親やそれを支えている長男、東京で大企業に勤める長女、そしてスポーツ推薦で大学入学を決めた次男。家族みんなの背中はあまりに遠かった。  では近くで働く若い大人たちはどうか。  当時の僕には結局生まれた時から続く地元のつながりがすべてでそれは大人になっても変わらないように思えた。農家や漁師、旅館でも、町役場でも、どこに行っても故郷のコミュニティからは抜け出せない。また、以前に比べ観光客が減り、小学校のクラスが減り、活気がなくなりつつある町に金銭的な面での将来があるようにも思えなかった。  仲間もいない、お金も手に入らない……故郷を息苦しい監獄のように感じ始めた6年生の僕はどこかに逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
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