田舎という監獄

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 暦は9月。試験は単願で12月初旬。偏差値ギリギリ30代の地方の私立学校とはいえ、入学試験はある。学科だけでなく、面接も。  入りたいという気持ちだけで入れてくれるわけではないし、いまから考えれば塾で勉強したことがないような田舎の小学生には無謀とも思える話だった。  大学受験すらしたことがない両親もそのことはわかっており、面接試験の内容を学校に確認する一方、学科試験については面倒見がいい長女の志乃に臨時教師役をお願いしてくれた。  当時はポケベル全盛で携帯電話すらまだ背負っていた時代だ。当然インターネットなど普及していない。情報は人づてか、新聞、雑誌、本など紙媒体が中心。  漠然と受験勉強なるものをした方がいいと思ってはみても何をやっていいのか皆目見当がつかなかった僕を、志乃は畳敷きの客間に呼んで正座させた。 「父さんから話は聞いたけれど、本当に寮のある学校にいきたいの?」 「うん、どうしても行きたい。」 「決意は固いようね……それなら1つ大切な話をします。難しく聞こえたら訊いてね。」  頷いて促すと、教師が児童に教える時のように 「あなたにはいまやりたいことができましたね。それを実現するためには試験を通る必要があります。でも、いまのままではきっと試験を通ることは難しいでしょう。少しでも勉強して学力を上げる必要があります。そして、勉強するためには時間が必要です。時間は限りがあるものですから、いま友だちやゲームのために使っている時間を犠牲にして勉強に使わなければなりません。その約束ができますか?」  と説明して、問いかけてきた。僕が少し躊躇いながら頷き返すと、 「じゃあ、お姉ちゃんと頑張ろう。」  と言って僕の勉強に付き合ってくれた。  その日から、放課後、鬼ごっこの誘いに来た友だちを、志乃が片っ端から追い返すようになり、都会の書店で買ってきた漢字書き取りと計算ドリルを夜の10時近くまで繰り返しやるようになった。
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