田舎という監獄

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 喉に違和感を覚えて目を覚ました。しばらくボーっと天井を眺めてみる。だんだん自分が何のためにここいるのか思い出して、そわそわと落ち着かいない気持ちになった。くすんだようなクリーム色の天井をみていても、乾いて張り付いた喉を潤してはくれない。都会の水を飲む気にもなれず、物音をさり気なくたてて両親に気づいてもらいながら、長袖半ズボンの小学校の制服に着替え、朝食を取りに部屋を出た。  ホテルのベッドが合わなかったからなのか、朝食の鮭の塩焼きが薄っぺらで味気なかったからなのか、試験という特別な日だからなのか、よそよそしい気持ちで2駅先の試験会場の中学校に向かった。  よく暖房が効いた電車から降り、12月の冷たい風がお下がりのハーフコートから突き出した太ももを勢いよくなでる。受験生と思しき暖かそうな服装の子どもと身なりのきちんとしたその親たちが受験など想定していない狭い改札の前で列をなす。  身体が冷え、真っ赤にしもやけていく太ももと指。おかしなところがないか、気になりだし、次第に頬まで紅潮してくるのがわかった。手も震えていたかもしれない……  改札を出ると父は道から少し奥まった駅舎のわきに僕を招き入れ、目の高さまで腰を屈めながら、両手を静かに、しかし有無を言わせず包み込むといつもの優しい声で言った。 「父さんと母さんも一緒に試験を受けるから心配しなくていい。必ずいいようになるから思い切りやったらいい。」  いまから思えば父の方が緊張していたかもしれない。でも、幼かった僕にはそれだけで十分だった。
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