屍魔狩人の涙は涸れても

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 単に森の獣を狩る狩人ではなく、もっと特殊な専門家――「屍魔(しま)」と呼ばれる恐ろしい化け物をしとめる手練だった。  屍魔は、魔の力によりよみがえった死者だ。  生前の縁者に執着し、その命を奪おうと夜な夜な襲ってくる。  その肉体はすでに死んでおり、足を斬ろうが心臓を貫こうが首を刎ねようが、魔の力はかまわず(しかばね)を動かす。  死者の肉体を塵一片も残さずに焼き尽くす以外、屍魔を止めるすべはない。  だが木材は貴重で、油はさらに貴重だった。  火葬すら一部の裕福な家の贅沢で、まして屍魔退治のために大量の木材や油を費やすことなどできはしない。  屍魔が現れると、人びとは、屍魔狩人が磨きあげた体技と最小限の油と火でしとめるまで震えて祈るしかなかった。  ――おまえたちは、この務めを果たすべく生まれたのだ。励め。できなければ死ね。  屍魔に襲われた女が死後に産み落とした忌み子の兄妹――それがラドゥとヴィアだった。  ラドゥとヴィアは、同じく忌み子だった養父のもとで必死に修業した。  屍魔狩人になる以外に、屍魔と関わりの深い忌み子が人間の世界で生きることはできなかった。  数えきれないほど痣を作り、血を流し、骨折し、涙など涸れ果てたが、ラドゥとヴィアは互いに励ましあって耐えきった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加