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月のない夜だった。
低く垂れこめた雲が夜空を隠しているのか、星も見えなかった。
冷たい大気がしんと冴えわたるだけで、まるで世界のあらゆるものが眠りの呪いを受けてしまったかのように、風の音も聞こえない。
ラドゥが持つかぼそいランタンの灯まで、無音のまま揺らめいた。
(落ちつけ――落ちつけ――)
耳の底に聞こえるのは、自分の浅く不自然な呼吸音だけだ。
ラドゥは一度足を止め、胸もとに手をあて、肺に残った息をふうっと吐いた。
そんな無理やりな息づかいの音が、どうにか正気をつなぎとめてくれる。
(落ちついて――やりとげろ――)
赤ん坊のころから、二十年以上暮らしてきた村だ。
家々も、土の道も、そして地下墓所があるこの丘のちょっとした窪みまで知り尽くしている。
目をつぶっても歩けると思っていたはずなのに、冷気と暗闇と静寂とに支配されたいま、ここがどこなのかラドゥは見当がつかなかった。
ただ直感にまかせて、地下墓所の入口を探す。
ラドゥは、女向けだった長さを無理やり伸ばしたブレスレットに触れた。
そして静寂に抗ってつぶやいた。
「……ヴィア……」
§ § §
ラドゥと双子の妹ヴィアの養父は、狩人だった。
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