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 どうして子どもの部屋はあるのに、私の部屋はないのだろう。どうして、私たちの部屋しかないのだろう。  夫婦は好きで一緒にいるのだから、同じ部屋だっていいのか?  結婚はまだかと急かされて、同窓会で再会した未婚の男たちの中で一番気が合った人となんとなく結婚した私には、四六時中彼を愛し続けるほどの、ずっと同じ部屋でベタベタと愛し合うような愛はない。  そう。日々、事故に遭わずに元気に帰ってきますように、と願う程度の愛しかない。  考え事をしている頭、というのは、どうしてこうもバキバキに冴えているのだろう。考え事をすればするほどに疲れるはずではないのか。疲れたら、眠たくなるものではないのか。どうして私は、眠れないのか。  大人げなく不貞腐れてベッドに潜り込んでみたはいいものの、少しも眠りに落ちる気配がなかった。  お父さんが部屋に近づいてくる足音を耳にして、私は寝たふりをした。 「おやすみ」と優しい声がした。寝ていると思い込んでいるらしい彼は、ゆっくりとベッドに潜ると、私より先に眠りについた。彼のいびきを数えた。羊を数えるように、いびきを数えた。  うるさくて、余計に眠れない。イライラが増す。  けれど、いつの間にか、私の頭は機能を停止していた。  朝だ。寝坊した。  毎朝起きてから炊飯器のスイッチを入れ、ご飯を炊いている間にお味噌汁やらおかずを作るのがルーティンだが、そんな余裕はなかった。  寝坊してやんの、とでも言いたげな冷たい目をしたコウタは、すでに食事以外の準備を終えていた。朝ごはんを食べずに学校に行きそうな気配。  本当は、こんなことなどしたくはないが、仕方がない。  おやつにと買っておいたドーナツと、急ぎいれたココアを出す。 「何も食べずに行くなんて、よくないわ」  声を絞り出すと、コウタは仕方ない、とでも言いたげに腰を下ろし、無言のまま、けれど両手を合わせてから食べだした。  遅刻ギリギリだろう時間、ようやく靴に足を突っ込んだ。 「いってらっしゃい」 「いってきます」  お互い声に弾みはないけれど、言葉はいつも通りだった。異なることといえば、背中が見えなくなるまで見送る気になれなくて、だから玄関ドアが閉まりゆくさまを、ただぼーっと見ていたということ。
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