溺れて

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溺れて

錆びれたドアを開ければ、ふわりと心地良い風が頬を撫でていく。 「はぁー、今日も綺麗」 深呼吸しながら空を仰いだ。 うちの高校の屋上から見る夕焼けは本当に綺麗。ちょうどこの秋の時期が一番良い。 じわりじわりと水彩のように空に滲み始める淡い黄色、オレンジ。何度見ても、綺麗なものは綺麗で。 そしていろんな人の声が響く構内とは打って変わってとても静かだ。 ここだけ世界から切り取られたみたい。そんなところも好き。 でも、いつからか。屋上に来る理由は、この静かで綺麗な空間に浸るためだけじゃなくなっていた。 しばらく心地いい空間でうつり変わる空の色を見ていたら。 「あ、やっぱりいた。結野」 ひとりだけの空間に、落ち着いた声が響く。それだけで小さく跳ねる心臓は正直すぎて嫌になる。 「……、一ノ瀬」 「おっす」 一ノ瀬は軽く手をあげ、私の隣に座った。 「何。また逃げ出してきたの?」 「逃げ出したって人聞き悪いな」 整った顔をくしゃっとさせて笑う。 「逃げ出してきた、で当たってると思うけど。……彼女から」 そう言えば降参だとでもいうように肩をすくめた。
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