溺れて

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「前から言ってるだろ。俺はひとりの時間も大事にしたいタイプなんだよ」 「かっこよく言っても無駄だからね」 一ノ瀬は整った顔立ちに社交的な性格で、友達もたくさんいるし彼女もいる。 常に輪の中心にいる人間で、私とは真逆だ。 ……真逆なのに、好きになってしまったんだ。 高校1年のときから2年の今まで、彼女一筋だと分かっていても。 ―――――数ヶ月前。 いつも通り、放課後に夕焼けが綺麗な屋上でぼうっとしていたら。 ガチャッ、とドアが開く音がして急に意識が現実に引き戻される。 屋上は立ち入り禁止だし、もしかして先生だろうか。今まで会ったことはないけど。 どう言い訳しようかと考えながら身構えると。 「……、あれ。先客がいた」 「い、一ノ瀬くん?」 まさかの登場人物に頭が追いつかない。同じクラスだけど、あまり話したことはない人。 「結野さん、どうしたの?ひとり?」 「うん。私はただ、夕焼けが綺麗だから見に来たんだ。それに落ち着くし。一ノ瀬くんは?」 「んー、たまにはひとりの時間も大事かなって。屋上なら誰もいないしって思いついた」 「でも彼女さんと帰らなくていいの?」 そう聞けば、『うーん』と視線を逸らして珍しく言いよどむ。 「毎日毎日一緒に帰らなくてもいいじゃん?」 「まあ、それはそうだけど」 一ノ瀬くんはごろんとコンクリートの上に寝転んだ。そしてふぅ、と深呼吸。 いつも友達や先輩、彼女さんといるから賑やかな方が一ノ瀬くんは好きなんだと思ってたけど。 そんな一ノ瀬くんでもたまには1人にしてほしい、って思うんだ。 「そう言えば俺らあんま話したことないね」 「絡まないからねぇ、クラスでも」 「席近くなったこともないし班で同じになったこともないか」 「あー、言われてみればそうだね」 一ノ瀬くんは『ちゃんと話したのが立ち入り禁止の屋上ってなんかウケるな』と普段とは違う、柔らかい笑顔をみせた。 ―――こうしてたまに放課後になると一ノ瀬は屋上に来るようになった。 いろんな人から引っ張りだこの一ノ瀬は、夕陽が沈みきる前には帰ってしまうけど。それでもよかった。 夕陽が一ノ瀬を連れてきてくれるみたいだな、なんて思いながら短い時間を過ごす。ひとりでのんびり過ごすのも良かったけれど、彼と共有するこの空間も好きで。
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