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「おい、結城! 聞いたかよ。去年全国で活躍した東条圭介がここに入学したんだってよ!」
副部長である涼太が叫びながら体育館に入ってきた。後輩の試合なんて見ない僕は名前を言われても誰かわからずにいた。
「いやぁ、これでようやく俺らもトップ4には入れるんじゃねぇか」
「後輩頼みかよ」
「なんか言ったか?」
なんでもないと返して、シュートを放つ。相変わらず入らない。自分でもわかっていた。感情が荒ぶっていたり、焦ったりしていると入らない。落ち着いて頭の中を空っぽにしないと入らないのだ。何も考えずに、感覚だけで決められるほど僕に才能はない。朝練が始まる時間が近づくと、ぞろぞろと部員が集まってきた。朝練に顧問は顔を出さないため、僕が主導権を握ることになる。号令をかけて、全員集合させたところでいつもの筋トレメニューを始める。涼太が言っていた話を他の部員たちも知っていたのか、そこかしこから東条圭介の名前が耳に入る。どんな人なのか、気になったが放課後になれば解決する。おそらく、こちらから勧誘しなくても入部してくるだろう。そもそも、ここはバスケで強豪校と呼ばれるところだ。始めからバスケ一筋で入学してくる者も多い。その東条とやらが、どれほどの実力だが知らないがここで埋もれることなく活躍してくれればいいな。と、そんな嫌味を誰に言うわけでもなく心のなかで呟く。元々、今年で最後の大会になる僕たちにとって一年生たちは主力にならない。だから当然期待もしていない。今いる二年生と三年生でのチームプレーを極めなければならない。だが、どうやらそう考えている僕だけのようで、部員たちは優秀な後輩がいれば勝てると思っている。それが悔しかった。
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