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ドックには、円盤型の黒褐色の潜水艇があった。
四方に突き出した突起があり、その艇首には、丸みを帯びたオブジェが付いている。
見かけは、大きな亀といった風情であった。
無駄に愛嬌のあるフォルムに、ヴォルフは半ばあきれ顔で言った。
「なんだ、これは?」
潜水艇の前にいる技師の男が胸を張った。
それを囲むように立つ数人の技師の助手たちも、満面の笑みをたたえて、うなずき合っている。
「心配ないですよ。姫様の指揮のもと、汎用の潜水艇をベースに秘密工作艇にアレンジした当国の先端技術の結晶と言うべき最新鋭の船です」
「このデザインについて誰も姫に意見しなかったのか?」
技師を始めとする助手連中は、表情を消して沈黙した。
ヴォルフも、それが無駄な指摘であるどころか、下手にオトゥの耳に入ると彼女の機嫌を損ね、職が飛びかねないことは理解している。
「……ま、できんよな」
肩を落としてそう口にすると、技師は短く「はい」とだけ言った。
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