ミッション開始

5/6
前へ
/159ページ
次へ
「何か言ったか?」  女性の低くも艶やかな声がした。それと同時に、前部のモニタ画面がオトゥの顔を大きく映し出す。 (ぅげっ!)  反射的にヴォルフの背筋がビクッと伸びて、後ろへひっくり返りそうになる。 「あ、いや、その、なんだ……カメサンの乗り心地抜群だなあ、って皆と話していたところで。なあ、お前ら?」  隊員一同、一瞬顔を見合わせてから、しきりに頷き合う。 「なら、良かった。ナチスひいては第三帝国の高度な軍事技術精神が、我が国の軍需産業に今なお息づいているからな。カメサンは、いわばUボートの系譜を引く最新鋭の作戦潜水艇だ。人類史上の最高傑作と言わねばなるまい。同時に開発している陸上二足歩行兵器クマサンは、戦火にまみれた欧州大陸を席巻した6号Ⅱ型、通称キングタイガー戦車に近代的なアプローチをした試作を重ねている。また貴様に試してもらうつもりだ」  それを聞いたヴォルフは、次なる「熊さん」に内心脱力しながらも、ほっと胸をなでおろした。  が、オトゥは続けて言った。「では、いったい何がだるいのだ?」 (え?)  艇内が静まり返る。  水を切る、くぐもった音だけがしている。  すると脇の席にいる部下のルイーズが口を挟む。 「僭越ながら申し上げます! そう言ったのは自分であります!」 (は?)
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加