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そのような事情で、つい黙りこんだままとなってしまったヤマトに、年輩の方の女性が彼に向かって「やっくん?」と呼んだ。
自分のことだと分かるが、そのような呼ばれ方されてもなんと応えたら良いものか、ヤマトは思案した。
「えっと、あの」
辛うじて、そう反応してみせたが、それ以上言葉が浮かばず、おろおろしてしまう。
自分の感触では赤の他人である相手に親しげにされても、困惑するしかない。
彼女はそんなヤマトの様子に、両手を腰に当てるなり、肩で息をついた。
「病院の人に電話で聞いたけど、ほんとに記憶喪失なのね」
その隣に立っている白髪交じりで猫背気味の男性が、口をもごもごさせた。
「ヤマト、本当に僕たち、父さんと母さんのことが全く分からないのかい?」
申し訳ない思いがしたが、分かるふりもできない。
ヤマトは黙って頷いた。
すると、こちらから見て一番奥にいた若い女が、不快そうに目を細めた。
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