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相部屋である病室の窓の外には夕闇が迫っていた。
そのような折に、サイドテーブルにあるスマホがバイブして短く固い音を立てた。
この時には、ヤマトは自分が人目には分からないほどの超小型イヤフォンが両耳に装着されていることに気づいていた。
スマホの音声が頭の中で響いている感触で自ずと知れたが、どこでその高機能のイヤフォンを手にしたかも、当然彼の記憶にはなかった。
『ヤマト、聞いて』
「何、唐突に?」
『海上から船影が高速で、こちらに向けて接近中よ』
「たまたま、市内の港へ航行しているだけじゃないのか?」
『甘いわね』
ミュウは即座に言った。
「オレが標的だと、どうして分かる?」
『まっすぐに、あなたを目掛けて海を進んでいるのよ。何なら試してみる?』
「何をだ?」
『いいわ。今から、そうねえ、廊下を出て30メートルくらい歩いてみたら分かるわ』
「そんなことで……?」
言われるまま、ヤマトは廊下に出た。
人気はない。
『彼らは、おそらく自動追尾システムで私の発信している電波を目標に設定しているんだわ』
「つまり?」
『あなたが彼らの進行方向に対して横移動すると、船の舳先も自動で向きを微調整するはずよ。右でも左でも歩いてみて』
彼は肩をすくめると、とりあえず歩いた。
『……やっぱり』
「そうなのか?」
『もう一回、病室に戻って』
「うん」
『……ほらね。ヤマトの歩いた方角へ0.3度ずつ、向きを変えたわ。これぐらいの角度は、機械同士の話で、船にいる人間には波に揺られていることもあって到底感じ取れないし、向こうの機器もヤマトがたまたまトイレか何かで歩いただけと解釈しただろうけどね』
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