プロローグ

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プロローグ

 いよいよ彼に会う時が来た。そう考えると、朝から何も手につかなかった。信じられないことに、お腹も空かない。  どうやって連絡を取ろう。ちゃんと会ってくれるだろうか。……気持ちを受け入れてくれるだろうか。  答えの出ない問いを延々と繰り返していたら、いつの間にか夜になっていて、諦めたようにベッドに勢いよく倒れ込んだ。 「どうしたもんか……」  自分から離れたくせに、今さら会いたいなんて。ふわふわとした希望だけが浮かんできて、具体的なことは何一つ決まらない。何より勇気が湧いてこなかった。  やはり再会したいなんて烏滸がましい考えだろうか。モヤモヤしながらも一旦気持ちを整理するために、無意味にスマホを操作する。それでもなお頭の中は彼のことでいっぱいだ。本当に、やり直すことなんて出来るのだろうか。可能性は1%に満たない気がする。  思考に抗うように必死に画面を眺めていると、たまたま出てきた広告に目が止まった。チカチカと輝く眩しい装飾。年下の男性と年上の女性を結びつけるマッチングアプリのようだ。広告には次々と男性の写真がランダムで映し出されている。 「……え?」  そこに見覚えのある後ろ姿を見つけた。ほんの一瞬だけだったけれど、今のはまさか……。いや、落ち着いて。こんなところに彼がいるはずない。  冷静に判断しようとする心の声とは裏腹に、指は勝手に動いてしまい、気がつくと画面をタップしていた。  開けっぱなしにしていた窓から涼しい風が吹き込んできて少し肌寒い。鳥肌を立てながら、夢中で画面の中の彼を探し始めた。
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