雪女物語

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 おや、見慣れない格好だね。へえ、旅をしているのかい?  随分遠い道のりを来たようだね。疲れていることだろう、この村で休んでいってはどうかな。  怪しい? ははは、そんなことは無いさ。僕は至って善意で言っているんだよ。  ……そうか、泊まっていってくれるかい。よかった、今ちょうど力仕事ができる人を探していたんだ。お代はいらないから、少し手伝ってくれるかな。  やっぱり目的があったのかって? そうだよ、代償の無い好意ほど恐ろしいものは無いんだから。それじゃあ、さっそく僕の書斎の片付けを手伝ってほしいんだ。僕の家に来てくれ。  周りを不思議そうに見てどうしたんだい?  え? 何故雪が降っているのかって?  今は夏なのに?  この村は一年中雪が降っているんだよ。寒いのが苦手な人には居づらい場所だろうね。誘っておいてなんだけど、君は大丈夫?  大丈夫なんだね。よかった。  まだ納得がいかないといった表情だね。どうしたんだい?  ……ああ、なるほど。村の外は雪が降っていないのに、この村に雪が降っていることが不思議なのか。  そうだね、この辺りで今雪が降っているのは、この村と……村のすぐ傍にある、あの雪山だけだ。  ……知りたいかい? この村と、あの雪山にだけ雪が降る理由を。  …………そうか、知りたいのか。ならいいよ、教えてあげよう。  ただし、書斎の片付けをしながらね。  もうすぐ僕の家に着くから、少し待ってくれ。  ああ、この本も懐かしいな……あ、これも面白いんだよ。興味があるなら貸そうか?  うん? 最初から足の踏み場がかろうじてある程度だったのに、更に本を散らかして足の踏み場が無くなった?  おや、本当だね。まあ、どうせ片付けるんだから問題無いさ。  あはは、君意外と綺麗好きなんだな。そんなに気合を入れて片付けようとしなくても、ある程度動けるようになればそれでいいのに。  さて、それじゃあ君が知りたがっていた雪が降る理由だけど……君は、どう思っているのかな。  “雪女”の存在を。
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