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目の前が真っ暗だ。目を瞑っているのか、閉じているのか、瞬きをしている感覚はあるのに、既にそれすら判断できなくなった。
最後に見た景色は、俺のことを憎んでいたはずの人物が、泣きながら俺の体に刃を突き立てた瞬間。
何故、彼は泣いていたのだろう。
何故、俺はあれほどまでに憎まれていたのだろう。
耳に残る彼の叫び声は、悲痛な叫びか、それとも歓喜の雄叫びか。
記憶の糸を手繰り寄せようとしても、俺の意識は既に事切れる直前で。真っ暗なはずのスクリーンに映し出される景色は過去の記憶の映像。
細切れになった記憶の断片が過去の過ちを責め立てる。
きっと彼は、この中の誰かの身代わりだ。
憎まれても、恨まれても仕方ない。そう思わなければこの一瞬を受け入れられない。
俺があちらに逝くことで、彼が喜んでくれるなら、すぐにでもこの意識を手放そう。
記憶の断片は徐々に霞んで、その灯火は間もなく消えゆく。
光も音もない世界で、ただ一つの個体としてその間を揺蕩う。
指先から崩れていく感触は、もう感じられないはずなのに、不快感が襲いくるのは微かな意識が創り出す幻。
俺は彼の記憶に残ることができるだろうか。あわよくば、頭の片隅に俺の居場所を作って欲しい。
たった一人の友だちへ託す、最後の願い。
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