「山は見ている」

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「映画とかでよ、怖い目に遭う奴等は大抵、リア充?パリピじゃん。ほら、昔イジメた奴とか、調子こいて壊した祠の呪いとか、そんな理由でな。 でも、あれは創った奴等のひがみとか、妬み?の産物であって、実際、関係ねぇよ。お化けの方は、こっちの生活様子とか、事情なんて、全然しらねぇもんな?」 友人“О”の地元は例年、雪が降る。 前夜に積もった雪の様子を見る為、自宅裏山に登ったある朝の事… 山間に広がる銀世界は、時折、木々から零れた雪の落下音と自身の靴音のみの 静寂… “ザクッ” 不意に響いた、雪を踏みしめる重い足音に辺りを見回す。 誰もいない。朝日に反射した雪が眩しいだけだ。 “ザクッ ザクッ” 再びの音、自分の方に向かってきている事に気づいた。 “ザクッ ザクッ ザクッ” 雪が積もった地面を見る。自分の足音へ沿うように、山林の方から足跡がついている。だが、姿は見えない。 “ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ” Оの目の前で、新しい跡がつく。長靴ではなく、裸足の足…その指は獣のように伸びている。 理解した瞬間に駆け出した。 “ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ” 焦る自身のすぐ側で音が響き、低い唸り声と生臭い息が顔にかかった。 絶叫したОは足を滑らせ、そのまま自宅裏の川に落下する。 どうにか這い上がった時には、音と気配は消え、静寂が戻っていた…  「おかげで3日寝込んだ。もう行きたくない。朝っぱらから、あんなおっかねぇのに追っかけられちゃぁな。全く、ゴミ捨てたり、山で騒ぐ馬鹿共だっていんのに、何で俺が、こんな目に…」 追いかけられて以来、静かな場所が、怖いと言う。 「人ごみに行きたいけどな。今はまだ、アレだから。伝染ってもやだし…だけど、家にいると、あの雪踏む音思い出して…ああっ、クソッ」… この話には続きがある。 「Оの話…ああ、何か追いかけられたってアレ?知ってるよ。まぁ、当然なんじゃない?」 Оの知人によれば、彼の山登りは雪が目的ではないと言う。 「“罠”見に行くんだよ。落とし穴とかさ。木の杭とか埋めたエグいの… 何か“キャンプとかBBQやってる奴等がうぜぇ”言っててさ。 そいつ等がたむろする所に仕掛けて、引っかかったかを、確認して喜ぶらしい。血痕とかあったら、はしゃいでたね。 小動物とか落ちてる事あるらしくて、トドメさしたり…ヤバいよ。マジで…」 妙な静けさの中、知人が最後に呟いた。 「山はさ。見てるんだよ。ちゃんとな。俺達のやってる事を…」…(終)
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